いっこう分からなくなりました。
 無論、川上糸子は伊豆山から帰ったのであろうが、そもそもこの事件の中心なるものが、どこにあるのかさっぱり見当がつきませんでした。
 ところが、事件はさらにいっそう分からなくなったのであります。というのは、伊豆山へ電話をかけにいった刑事が、およそ二十分ほど過ぎて帰ってきて、小田さんに次のように語ったからです。
「川上糸子はまだ相州屋《そうしゅうや》に滞在していて、しかも一昨日から気分が悪いといって床《とこ》に就いているそうです」

   第四回

     一

 女優川上糸子が、伊豆山の相州屋に滞在中であると聞いた時、俊夫君と小田刑事とは、互いに顔を見合わせて、さすがにしばらく呆然たる有様でした。まことに無理もありません。川上糸子はゆうべたしかに春日町の空家に、たとえそれが仮死であるとしても、死骸として発見されたのであるのに、伊豆山の相州屋では、一昨日の晩から気分が悪いと言って、床に就いているというのであるから、もし伊豆山に果たして糸子が臥床《がしょう》中であるとすると、その糸子がにせ物であるか、あるいは春日町の空家で発見された糸子がにせ物でなくてはなり
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