リカに、有名なワルトン・ドワイト事件というのがあって、その事件の中心となったのがこのゲルセミウムです。
ドワイトという男が、自分の生命保険金を詐取する目的で、この毒をのみ、死んだように見せかけて、医師をあざむき、死亡診断書をとって保険金を貰い、自分は後に生きかえって、その金で栄華な暮らしをしたということです。それはアメリカの南北戦争がすんで間もない時のことですが、犯罪史上ではかなりに有名な事件です」
「すると、そのゲルセミウムは人間を仮死の状態に陥らしめるのだね?」
「そうです。知覚神経にも運動神経にも強く作用しますから、これを飲みすぎれば死んでしまいますが、適当の分量をのめば、一見死んだように思われて、その実、後に生きかえることができるのです」
「ふむ」
と小田刑事は考えこみました。
「そうすると、あの川上糸子の死体も、殺されたように見せかけただけだろうか」
「さあ、僕は実際に見なかったから何とも言えないのですが、斬《き》られたのでもなければ、絞殺されたのでもなく、しかも死体が紛失したのですから、先刻も、川上糸子が仮死に陥ったのではないかしらと申しあげたのです。ところがこのゲルセ
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