せんか」
「あッ、そうだ。きっとそうだった。君はその男を知っているのか」
「知っているどころか、実は先達《せんだっ》て川上糸子が首飾りを盗まれたとき、僕は探偵を依頼されて、山本が持っていることを知り、山本の手から首飾りを取りかえしたのですよ。事はいわば内済《ないさい》になりましたが、そのために山本は職を失いました」
「すると、そのことをうらみに思って、その山本というのが、川上糸子を殺し、死骸を君に進呈すると書いたのだろうか」
「さあ、それはどうだかまだ分かりません」
「さっき君は、僕の尋ねる前に、すでに春日町で人殺しのあったことを知っていたようだが、それはどうして分かったのか」
「ああ、そうでしたねえ。それを話す約束でしたねえ」
 そこで俊夫君は、深夜に男の声でからかい[#「からかい」に傍点]の電話のかかったこと、その電話は春日町二丁目の「近藤つね」という美容術師の家《うち》からであったこと、美容術師は、一人の女弟子とともに住んでいるが、覆面の盗賊に入られて麻酔剤を嗅がされ、人事不省《じんじふせい》に陥ったから、たぶん盗賊が電話をかけたのであろうということなどを順序正しく述べました。

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