「その電話をかけた男の声が、いま君の話した山本ではなかったかね?」
「さあ、山本の声をよく覚えていないし、それに電話の声は普通の声と変わるものだからはっきりしたことは分かりません」
こう言って俊夫君は考えこみました。
二
間もなく自動車は、目的地たる春日町一丁目の空家の前に止まりました。それは街から少し引き込んだところで、建ててからまだ一年はたつまいと思われる平家《ひらや》でありました。
小田刑事が先に立ち、私たちはそれに続いて屋内に入りました。雨戸がたった一枚あけてあるだけでしたから、中は薄暗かったけれど、でも何が起こっているかは、じゅうぶん分かりました。
そこにはまったく意外な光景《ありさま》があらわれていたのであります。
小田刑事が、死骸の番に残しておいた二人の刑事が、ともに猿轡《さるぐつわ》をはめられ、柱にしばりつけられていたのでして、私たちの予期した川上糸子の死骸は、そのあたりに見えなかったのであります。
小田刑事は、思わず「あッ」と叫んで、二人のそばにかけより、二人の縄を解き、猿轡《さるぐつわ》をはずしました。
「僕が想像したとおりだ。兄さん、川上
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