い、のみならず、思いもよらぬところに連絡をつけて、実にたくみに犯罪を行っているらしい。この名刺が、川上糸子の死骸の上に置いてあったのを見ると、彼女はおそらく誘拐されるのを拒んで、そのために殺されたのかもしれん。いや、何にしても、えらい事件が起こったものだ」
 俊夫君はじっと、その話を聞いておりましたが、何思ったかとつぜん尋ねました。
「川上糸子の死骸は今どこにありますか」
「君に現場を見せるつもりで、春日町一丁目の空家にそのまま置いてあるよ」
「誰か番をしておりますか」
「部下の刑事が二人番をしている」
「あなたが役所に引きあげられたのは何時頃でしたか」
「四時頃だったと思う」
「それから今まで、ずっと刑事さんたちが番をしているのですね?」
「そうだ」
「そりゃ、愚図愚図しておれません」
「なぜ?」
 それには答えないで俊夫君は私に向かって言いました。
「兄さん、すぐ自動車を呼んでくれ。そうして出かける準備をしてくれ」
 私は電話をかけてタクシーを呼びました。それから私たちは、例のごとく出発の用意をしました。
 ほどなく自動車がきましたので、三人はそれに乗って、早朝の街を走り過ぎました
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