深夜の電話
小酒井不木
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)妬《ねた》んだり、
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)少年科学探偵|塚原俊夫《つかはらとしお》君
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「ございません」は底本では「ごさいません」]
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第一回
一
木の茂れば、風当たりの強くなるのは当然のことですが、風当たりが強くなればそれだけ、木にとっては心配が多くなるわけです。
少年科学探偵|塚原俊夫《つかはらとしお》君の名がいよいよ高くなるにつれて、俊夫君を妬《ねた》んだり、俊夫君を恐れたりする者が増え、近頃では、ほとんど毎日といってよいくらい、脅迫状が舞い込んだり脅迫の電話がかかってきたりします。
たとえば俊夫君がある事件の解決を依頼されると、解決されては困る立場の者から、脅迫状を送って俊夫君に手を引かせようとします。あるいは俊夫君がある事件を解決して多額の報酬を貰うと、それを羨《うらや》んで、金員を分与せよなどという虫のいい要求を致してきます。
俊夫君は、それらの脅迫状や脅迫電話を少しも気にはしておりませんが、俊夫君の護衛の任に当たる私は気が気ではありません。皆さんは多分、私が「塵埃《ほこり》は語る」という題目の下に記述した事件を記憶していてくださるでしょうが、あの事件があって以来、私はできるだけ注意して、俊夫君と一刻も離れないように警戒しているのであります。
まったく、こんなに心配が増しては、有名になるのも考え問題ですが、それかといってどうにも致し方がありません。ことに、解決を望む人々が事件の解決を見て喜ぶ有様に接するたびごとに、私は、俊夫君がいかなる場合にも成功するよう祈ってやまないのであります。
これから、私が皆さんにお伝えしようとする話も、いわば俊夫君の名声の高いのが基となって起こった奇怪な事件です。世の中にはずいぶん物好きな人間もありますが、この事件に出てくる人物のような人間に出会ったことは初めてです。いや、こんな前置きに時間を費やすよりも、早く事件の本筋に入りましょう。
それは年の暮れも差し迫った十二月下旬のことです。諸官庁や諸会社のボーナスが行き渡って、盗賊《とうぞく》たちが市中や郊外を横行しようとする時分のある夜、ふと私は電話のベルに眼を
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