ときのような感覚をされたことだろうと思います。と申しますのは、患者の子宮は先生の予期に反して、先生が指で御つまみになると、空気の抜けかけたゴム鞠《まり》のようにくぼみましたからです。講習生の人々は、何事が起きたのかと、ちょうど、軍鶏《しゃも》が自分の卵ほどの蝸牛《かたつむり》を投げ与えられた時のように、首をのばし傾《かし》げて、息を凝らして見つめました。
 御承知の通り、手術室には、塵埃《ほこり》は至って少ないのですが、その時には、一つ一つの塵埃《ほこり》が、石床《いしゆか》の上に落ちる音が聞えるかと思われるほど、静かになりました。やがて先生の手は少しく顫《ふる》えかけました。すると、先生は何事かを決心されたかのように、でも、何事も仰《おっ》しゃらずに、つと、子宮の中へ指を入れて、血のついた白みがかった塊《かたまり》をつかみ出されました。が、それは、ほんの一瞬間のことで、先生はその塊《かたまり》を右の掌《て》の中へしっかり握りこんでしまわれました。講習生の方々は勿論、恐らく助手の方々も、それが何であったかは御承知なく、やはり、子宮の中に出来た病的の腫物だと思って居られたらしいのです。

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