いキャップを御かぶりになり、口にも白いマスクをかけて手術に取りかかられるのが例で御座います。先ず、助手の方々によって、手術局部の厳重な消毒が行われますと、愈々《いよいよ》先生は手術に取りかかるために、特別な手術道具で、子宮を出来るだけ手前へ引き出しになりまして、順序として、指で丁寧に患部を触れて御覧になりました。
もとより、その間も先生は、聴講生に向って、熱心に説明して居られました。私にはよくわかりませんでしたが、子宮繊維腫の出来たときには、子宮は林檎《りんご》のようにかたくなるのが特徴であるということを繰返し説明なさったようでした。
ところが、暫《しばら》く触診をなさっておいでになりますと、先生の御言葉が段々乱れてまいりまして遂には、ぱたりと口を噤《つぐ》んでしまわれました。そして、ちょうど顕微鏡を御のぞきになるように、眼を近づけて、さらけ出されたものを、触診しながら、見つめて居られました。と、見る見るうちに先生の御顔に疑惑の色がただよい、その額にはオリーヴ油のような汗の玉が、ぎっしり並び始めました。恐らく先生はその時、夏の晩方、石だと思って掴《つか》んだのが、蟇《がま》であった
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