うが、子宮を剔出するには腹部から致しますのと、局部から致しますのと二通りの方法が御座います。T先生は、講習生に示す関係上、後の方法を御選びになりましたので私どもはその準備を致しました。手術室は、中央に手術台が置かれ、その手術台のまわりに凡《およ》そ一間半ほど隔てて、生徒たちの見学する台が、手術を見|易《やす》くするために、ちょうど、昔のローマの劇場のように、一段々々後ろへ高くなって備えつけられてあります。で、二十数人の講習生は其処《そこ》へ半円形に陣取って、先生の臨床講義の始まるのを待って居りました。
 最初に先生は、当の患者を連れて来て、一通りその病歴を御話しになり、子宮繊維腫と診断なさった理由を、いつもの通りの、歯切れのよい、流暢《りゅうちょう》な言葉で御述べになりました。凡そ半時間ほど説明をなさって、患者を別室に退かせになりました。即ち、その別室で、患者に麻酔剤を与え、患者が十分麻酔した頃に、手術室に運んで、手術を受けさせるという順序で御座います。
 やがて患者は手術室に運ばれて来ました。患者が手術台に乗りますと、私は大へん忙《せ》わしくなるので御座います。先生も助手の方々も、白
前へ 次へ
全12ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング