うぞ是非話して頂戴《ちょうだい》」と他の二人の女の方が口を揃えて、熱心に申しましたので、C子さんは、「それでは」といってしずかに話しはじめました。
 その時、ふと私が明け放した座敷から、おもてを見ますと、蝎座《さそりざ》の星が常よりも鋭く輝いて、はや、西南の空の地平線に近いところへ移って居ました。


 △△医科大学が、まだ△△医学専門学校と申しました時分のことで御座います、私は、産婦人科教室の看護婦を勤めて居りましたが、患者の受持ではなく、手術場を受け持って、手術の際に、ガーゼを渡したり手術道具を渡したりする役を致して居りました。
 主任教授はT先生と申しまして、その頃は四十前後の、まだ独身で御座いましたが、産婦人科の手術にかけては日本でも有数の御方で、その上弁舌に巧みでいらっしゃいましたから、学校内は勿論世間でも大へん評判が宜《よろ》しゅう御座いました。いくら名医と申しましても、やはり人間である以上誤診ということは免れ得ませんが、T先生は平素、念には念を入れる性質《たち》でしたから、滅多《めった》に誤診はなく、たまたまあっても、患者の生命に少しの影響をも及ぼしませんでした。
 とこ
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