子豚《こぶた》を九|疋《ひき》食った牝豚の血が、鍋の中へ入れられますが、あの無邪気に見える豚でも、共食いするかと思うと、何となく気味の悪いものですねえ……」
 こういってN氏は、私たち九人が、恰《あたか》も九|疋《ひき》の子豚《こぶた》で、今にも牝豚ならぬ妖婆が、私たちを食べにでも来そうな雰囲気を作り出しました。
 この時、弁護士のS氏は言いました。「どうです、いま、共食いの話が出た序《ついで》に、今晩は、人間の共食いを話題としようではありませんか」
「いい題目《だいもく》です。皆さんどうです?」と私が申しました。
「大賛成!」「結構ですわ!」と皆々同意されましたので、私は申しました。
「先ず隗《かい》より始めよということがありますから、最初にSさんに御願い致しましょう」
 S氏は頭を掻いて、「どうも、とんだことを言い出しましたねえ」といい乍《なが》ら、でも、すなおに話し始めました。法律家であるだけに、穂積博士の「隠居論」に載って居る食人の例をよく記憶して居られて、老人隠居の風習の起りは「食人俗」にあることまで、極めて秩序的に説明してくれました。
 それから、私が話す番になったので、私
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