死体蝋燭
小酒井不木
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)宵《よい》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)時々|砂礫《すなつぶて》を
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)したまがり[#「したまがり」に傍点]
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宵《よい》から勢いを増した風は、海獣の飢えに吠ゆるような音をたてて、庫裡《くり》、本堂の棟《むね》をかすめ、大地を崩さんばかりの雨は、時々|砂礫《すなつぶて》を投げつけるように戸を叩いた。縁板という縁板、柱という柱が、啜《すす》り泣くような声を発して、家体は宙に浮かんでいるかと思われるほど揺れた。
夏から秋へかけての暴風雨《あらし》の特徴として、戸内の空気は息詰まるように蒸し暑かった。その蒸し暑さは一層人の神経をいらだたせて、暴風雨の物凄《ものすご》さを拡大した。だから、ことし十五になる小坊主の法信《ほうしん》が、天井から落ちてくる煤《すす》に胆《きも》を冷やして、部屋の隅にちぢこまっているのも無理はなかった。
「法信!」
隣りの部屋から呼んだ和尚《おしょう》の声に、ぴりッと身体をふるわせて、あたか
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