、なんだかこう胸の中が掻《か》きむしりたくなるような、いらいらした気持になって、じっとして坐っていることすらできなくなったのだ。あさましいことだと思っても、どうにも致し方がない。魚を焼いても、牛肉を焼いても、その匂いは決してわしを満足させてくれぬ。あの、したまがり[#「したまがり」に傍点]の花の毒々しい色を思わせるような人肉の焼けるにおいは、とても、ほかのにおいでは真似《まね》ができぬ。
お前は、わしがこのあいだ貸してやった雨月物語の青頭巾《あおずきん》の話を覚えているだろう。童児に恋をした坊主が、童児に死なれて悲しさのあまり、その肉を食い尽くし、それからそれに味を覚えて、後には里の人々を殺しに出たというあの話を。わしは、ちょうど、あのとおりに人界の鬼となったのだ。そうして、とうとう、そのために、良順を殺すようなことになったのだ。
良順がしばらく病気をしたのを幸いに、わしはひそかに毒をあたえて、首尾よく彼を殺してしまった。まさか、わしが殺したとは誰も思わないから、ちっとも疑われずに葬式を出した。しかし、彼が焼かれる前に、彼の肉は、ことごとく、わしのために切りとられたのだ。そうしてそ
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