ねてくるとはおかしいと思って、その理由《わけ》を尋ねると、
「来なければならぬからさ!」
 と俊夫君はすましたものです。
「なぜ?」
 俊夫君は黙ってポケットから紫色のサックを取りだして言いました。
「兄さん、そーら中をご覧よ」
 そしてサックの蓋をあけたかと思うと、ぱっと閉めましたが、中には紅色の宝石がまがいもなくきらきらと輝いておりました。
「盗まれたダイヤか?」
 と私は驚いて尋ねました。
「そうよ!」
「どうして君の手に入った?」
「犯人が隠しておいた所から取ってきたんだ。だから今晩犯人が、これを取りかえしにくるんだ」
「一体どうして探偵したんだい?」
「今晩犯人をつかまえてからお話しするよ」
「ちょっとそのダイヤを見せてくれないか?」
「いけない、いけない」
 こう言って俊夫君は意地悪そうな笑い方をして、ポケットの中へ、サックを入れてしまいました。
 私は俊夫君がどうして犯人をつきとめ、その犯人の手から紅色ダイヤを奪ったかを考えてみましたが、さっぱり分かりませんでした。
 暗号の文句は、あのとおり俊夫君をからかったものにすぎないし、昨日《きのう》の『読売新聞』も私の見た範囲で
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