ったものですから、叔父さんを犯人と断定するのはまだ早いと思いました。
ところが暗号を解いてみると、僕を嘲《あざけ》った文句が出ました。そこへ暗号を切り取った新聞が昨日《きのう》の『読売新聞』だったので、僕は犯人が叔父さんだという、たしかな証拠を得たのです。窃盗は前夜行われたのですから、外から入った犯人なら、昨日の朝の新聞を切り抜いて入れるわけがない。
またたとい犯人が、叔父さんのうち[#「うち」に傍点]のものであっても、叔父さんが真っ先に読む新聞を切り抜くはずはない。それに叔父さんは、もと逓信省《ていしんしょう》にいて電信符号のことを、よく知っているから、いよいよ犯人は、叔父さんだと推定したのです。
犯人が叔父さんだとすると、叔父さんは僕の力を試すために、やったことだと思ったから、犯人が分かったと告げてこちらへ来てもらえば、叔父さんはダイヤを持ってきてくれるにちがいないと考えたのです。そこで僕は昨夜《ゆうべ》、叔父さんに手紙を書き、今朝《けさ》投函しに出たついでに、銀座へ行って、贋《にせ》のダイヤとサックを買い、兄さんをだまして、叔父さんと格闘してもらい、どさくさまぎれに叔父さんのポケットをさぐり、本物と贋物とをすりかえてしまったんです」
叔父さんのさっきの怒り顔は、いつの間にかにこにこ顔に変わっていました。
「いやまったく感心した。紅色ダイヤはお前にやる」
と叔父さんは申しました。
「昨日の朝の新聞を切り抜いたのは俺の手ぬかりだったよ。四五日前から気をつけて、何か科学に関した記事はないかと捜していたが、ちょうどあの記事が目についたので、暗号を作ったのさ。暗号に身が入って、うっかりそのことに気がつかず、さっそく電話をかけてお前を呼びよせたのさ。それにしても大野君、随分ひどい目にあわせたね?」
私は穴があれば入りたいような気になりました。
「どうも失礼しました。俊夫君もひどいいたずらをさせたものです」
「だけど、叔父さんをひどい目にあわせることは、あの手紙に書いておいたよ」
「え?」
と叔父さんはびっくりして言いました。
「手紙を持ってきたでしょう?」
叔父さんは、チョッキのポケットから俊夫君が今朝《けさ》出した手紙を取りだしました。
「針で孔のあけてある字を読んでごらんなさい」
叔父さんは手紙を開いて、しばらく電灯の光にすかして読んでいました。
「
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