外国に取って物した創作を、翻訳の形で発表したのに過ぎないときいてびっくりしてしまった。そうして私は自分の探偵眼の鈍《にぶ》かったことを悲しむと同時に、探偵小説に於ては氏が私たちの先輩であることを知って一層尊敬の念を増し、なお、それらの作品に於て、心ゆくまでに出し得た氏の才筆と異国情調を羨《うらや》んだ。
 それ以後、私は氏と交際を願って今日に及んでいるのである。そうして僅かに一年足らずの間に私は氏にどれだけ文芸に関する薫陶《くんとう》を受けたか知れない。私は昨年の春から、はじめて探偵小説の創作を試みるようになったが、最初のうちは氏に大へん叱られた。しかしそのうちにまぐれ当りで一つ二つ多少見るべき? 作品を書いた時、氏は激賞して下さった。最初に叱られていただけ、私の喜びは大きかった。爾来《じらい》私は氏の批評をきくことを唯一の楽しみとし、又、唯一の指針として創作に筆を染めているのであって、もし、今後私が作品らしい作品を生産することが出来たならば、それは全く氏の御蔭であるといってよい。
 文人としての国枝氏は、その潔癖に徹底しておられる。だから氏は文章を作るに非常に苦心される。氏の文章が音
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