ともかく、父と母とがもし違った種類の人だったならば、生れた子が親と同一種類だとはいえなくなるのが当然ですからね」
「何しろ、探偵小説家は自分で血液などを実際に取り扱ったことがなく、ただ書物などに書かれてあることを、自分勝手に判断して書くのですから、そうした間違いを生ずるのでしょう」と私は言った。
「それはそうですね。小説家の書くことを一々|穿鑿《せんさく》するのは、穿鑿する方が野暮かもしれません。たしか一八七〇年頃だったと思います。フランスで、ある若い女が、豚などに生えているあの針のように硬い針毛《ブリスル》というのを細かく刻んで、それを自分の憎む敵の食事の中へ混ぜて殺した事件があって、一時欧洲で大評判となりました。すると小説家のジェームス・ペインが、この話を材料にして『ハルヴス』という有名な小説を書き、その中の主要人物の一人を、その姪が、馬の毛を細かく刻んで食事の中へまぜて殺すことに仕組みました。その実、馬の毛では所要の目的は達せられないのです。即ち針毛の細片ならば消化管に潰瘍を作って死因となることが出来ますが、馬の毛は却って消化液の作用を受け、潰瘍を作ることが出来ません。つまりペイ
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