に、彼女の額から出た血溜りが、丁度《ちょうど》紅い絵具で畳の上にわざわざ描いたかのように、一疋の吠えて居る犬の形を作って居た。これを見た私の全身から、たらたらと冷汗の流れ出るのを覚えた。早速バケツに水を汲んで来て、先ずその呪うべき犬の形を拭き取り、それからあたりを見まわしたが、意外にも血溜りの外には、血のとばっちりは一つもなく、畳の上にも、障子にも襖《ふすま》にも、血痕らしいものはさらに見つからなかった。
それから私は三日に亘《わた》って彼女の死体を切断し、風呂場の竈《かまど》で焼き払った。夜になると何処からともなく犬が集まって来ては頻《しき》りに吠えたが、幸にして私が死体を片づけてしまう迄は誰にも見とがめられずに済んだ。私は竈の中の灰までも掻《か》き集めて、それを裏の畑にすっかりばらまいてしまい、畳や風呂桶は幾度も幾度も雑巾をかけて、今はもう誰が取り調べに来ても大丈夫だと思った。
果して四日目の朝、三人の刑事がやって来て、令状を示し乍ら、家宅捜索をさせて貰いたいと言った。多分犬の吠えるのを、不審に思った隣人たちの噂でも聞伝えて、取り調べに来たのであろう。私は、自分ながら感心するほ
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