ど沈着な態度で、三人を迎え入れ、同居して居た女は先日ぶらりと出かけたまま帰って来ない旨《むね》を告げた。刑事たちは、私に色々訊問するかと思いの外、いきなり風呂場の竈の灰を調べに行ったけれど、もとより証拠の見つかろう筈はなかった。そこで三人はにやにや笑って何事か囁き合い乍ら、今度は茶の間の畳の上を廓大鏡を出して、検査したが、やはり、彼等の努力は空《くう》に帰した。
突然、私は何だかこう胸を圧迫されるように感じた。いわば軽い嘔気《はきけ》のような気分が起ったので、私は彼等から眼を離して、火鉢の前に坐り、手持無沙汰に灰を掻きならした。
ふと気がついて見ると、今迄ぼそぼそ話しをして居た三人の声が聞えなくなって、あたりは気味の悪いほど静かになったので、何事が起ったのかと顔をあげて見ると、三人は、「金毘羅大神」と書いた額の真下に立ちながら、恰《あだか》も飛行機の宙返りでも見て居るかのように、額の一点を見つめて居た。
私も立ち上って三人の傍《そば》へ近より乍ら、額の文字をながめた。
ああその時の私の驚き! 私はまるで全身の神経が一本一本抜け去ったかのように覚えた。「金毘羅大神」の大の字が、不
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