て注射を受けて、今日がおしまいであるというのに心は段々重たくなり気はいよいよ荒くなるようです。一度私の血を取って調べてくれませんか?」
「血をとって何を調べるのですか」
「もしや私の身体に犬の血がめぐって居やしないかと思うのです」
「馬鹿な!」
「いや、私は真剣です。どうか調べて下さい」
 医師は、始め私が冗談を云って居るのだと思ったらしかったが、私の顔に真実の色があらわれて居るのを見て、
「よろしい、調べてあげましょう。狂犬に噛まれた人の血が、犬の血と同じ性質を帯びて来るとしたなら、それこそ学界の一大発見ですから」
 といい乍ら、腕の静脈から二|瓦《グラム》ばかりの血を試験管にとった。
 あくる日を待ちかねて私は研究所をたずねた。医師は私の顔を見るなり、極めて真面目な顔をして、
「やって来ましたね。とうとう一大発見をしましたよ。さあ先ずこちらへ……」
 私は皆まで聞かずに、呆気《あっけ》にとられた医師を残して飛び出してしまった。万事休す。私の血管にはまがいもなく犬の血がめぐって居るのだ。それが今科学的に証明された訳である。犬神の家のものにはすべて、犬の血がめぐって居るのか、それとも、
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