。だから、天罰とか神罰とか言われるのであるが、ポアンカレーの言うように、偶然というものは、実は原因を見つけることの出来ぬ程複雑な「必然」と見做《みな》すのが至当であって、怪談や因果|噺《ばなし》の中にあらわれる偶然を、私はむしろ、この「複雑な必然」として解釈したいと思うのである。これから記述しようとする物語も、やはり同様に解釈さるべき性質のものであろうと思う。
 これは私の郷里なる愛知県××郡△△村に起った事件であるが、明治三十八年のことで、村から出征《しゅっせい》した軍人の大半が戦死し、人々の神経が極度に緊張して居た時分であるから、強く村人の心を揺り動かし、郷里の人々は、いまだに戦慄なしで話すことの出来ぬくらい深い印象を与えられた。
 話は村の素封家《そほうか》の一人息子と、貧乏な綿打屋《わたうちや》の小町娘との恋物語に始まる。男は木村良雄といって、当時東京の某私立大学に在学中、女は荒川あさ子といって、当時二十歳の鄙《ひな》には稀に見る美人であった。良雄とあさ子とは所謂《いわゆる》幼な馴染であって、二人の家は、鎮守の社《やしろ》の森を隔てて居るだけであったから、二人はよく、神社の境内
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