房も大きくなかったようだ」
「おい、おい」と仙波の声は荒くなりました。
「人を馬鹿にするなよ、人を」
「何を?」と、京山もいささか憤慨しました。
「貴様、助手をだまして、箕島のダイヤモンドをせしめ、俺には別の死骸のはらわた[#「はらわた」に傍点]を持って来たな? 道理でながくかかったと思った」
 身に覚えのないことをいわれて京山の怒りは急に膨脹しました。
「何だと? いわして置けば、きりがない。貴様先刻から、あちら、こちらにいじくりまわしていたが、俺の知らぬ間にダイヤモンドを取り出して、俺がはらわた[#「はらわた」に傍点]の事を知らぬと思って、子宮だなどといって、うまくごまかすのだろう」
 ぱッと仙波は京山にとびつきました。次の瞬間はげしい格闘がはじまり、やがて二発の銃声が起って、二人は死体と化してしまいました。

 翌日の新聞には、「稀有の犯罪」と題してT大学法医学教室の奥田教授の奇禍と鑑定死体の腹部臓器の盗難顛末が報ぜられておりました。それによると、S区B町の尼寺にその前夜強盗がはいって、尼さんの胸を短刀で刺し殺して金員を強奪して行ったのであるが、その尼さんの死体の臓器を二人の男が
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