した。
「実は今日の解剖は君たち二人にやってもらうことにしたよ。だから、そのつもりで一足先へ行って、もう一人の助手にそういってくれたまえ」
助手は怪訝《けげん》そうに教授の顔を見上げていいました。「矢野君は今日留守で御座いますから、先生と御一緒に解剖するはずで御座いましたが」
「いや、そうそう」と京山は、内心ぎくりとしながら答えました。「ついうっかりしていた。実はねえ、あの死骸は少し怪しいと思うところがあるから、腹の中の……五臓を僕自身で検《しら》べて見たいと思うのだ。だから君面倒だが、真先に腹の中のものみんな取出してくれぬか」
『五臓』などという言葉をこれまで一度も先生の口からきいたことがないので、助手は不審に思いましたが、矢野助手の不在を忘れるくらいだから、先生今日はどうかしてるなと思いました。
「承知しました」こういって助手が先になって走り出そうとすると、
「あ、君一寸」と贋教授はよびとめました。「君、僕はここで待っているが、腹の中のものだけ切り出して持って来てくれぬか。何だか今日は気分がすぐれないから」
少々京山も臆病になって来ました。
「でも先生、先生の口から、一応検事に
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