なり、なるほど自分の顔に似たところがあると思い、同時に教授の態度や声色が極めて真似し易いことを知りました。
 教授との二三の会話の後、いま、解剖室には警察や検事局の人が立合って、教授の行くのを待っているばかりであるということがわかりました。で、仙波はすばやく京山に合図をして、あッと思う間に教授に猿轡《さるぐつわ》をはめ、教授をしばり上げました。そうして五分たたぬうちに、京山は、白い手術衣をつけた奥田博士になり切ってしまいました。
 贋の奥田博士が廊下に出るなり、むこうから、同じく白服を着た男が来ました。京山は直覚的に、それが助手であると知りました。
「先生、もう皆様《みなさん》がお待ち兼ねですから、呼びにまいりました」
「そうかね、今一寸手が離せなかったものだから」と贋博士は鷹揚《おうよう》な態度でいいました。
 助手は敬意を表する為、教授の後にまわって歩こうとしました。京山ははッと驚きました。解剖室がどこにあるかわからないので、思わずもその場に立ちどまってしまいました。が、さすがはこれまで幾度《いくたび》となく扮装したことのある京山ですから、突嗟《とっさ》の間に、ある考えを思いつきま
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