してくださった片田博士と、なお、捜査本部の藤井署長にも、こうしてお立ち会いを願いました」
こう言って津村検事は、相手の顔をぎろりと眺めた。この“ぎろり”は津村検事に特有なもので、かつてこの“ぎろり”のために、ある博徒の親分がその犯罪を何もかも白状してしまったといわれているほどの曰《いわ》くつきのものである。彼はのちに、おらアあの目が怖かったんだよ、と乾分《こぶん》に向かって懺悔《ざんげ》したそうである。しかし、この“ぎろり”も、山本医師に対しては少しの効果もなかったと見え、
「何でもお答えします」
という、いたって軽快な返答を得ただけであった。
その時、給仕が冷たいお茶をコップに運んできたので、検事は対座している山本医師に勧め、自分も一口ぐっと飲んで、さらに言葉を続けた。
「まず順序として、簡単にこの事件の顛末《てんまつ》を申し上げます。
S区R町十三番地居住の奥田とめという本年五十五歳の未亡人が、去る七月二十三日に突然不思議な病気に罹《かか》りました。午前一時ごろ、急に身震いするような悪寒が始まったかと思うと、高熱を発すると同時に、はげしい嘔吐《おうと》を催しました。まるで食
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