また自殺するならば、わざわざ一日置きに四回も苦しむということは考えられません。精神異常者ならばともかく、さもない人がそうした死に方をするとは思われないのであります。
 そこで、未亡人の自殺が問題にならぬとすると、次に考うべきことは、未亡人の病気がはたして亜砒酸中毒であったかどうかという問題です。未亡人は前後四回同じ病気に襲われていますけれど、四回ともはたして同じ病因であったかどうかは容易に断ずることができないのであります。わたしのごとき素人にはわかりませんが、症状が酷似しても原因がまったく別な病気は沢山あるらしく思われます。そこでわたしたちは、ここにおいでになる片田博士にお願いして、亜砒酸中毒以外に何か未亡人の身体から別の病原を発見することができはしないかと思い、その方面の綿密な検査をしてもらったのであります。
 すると意外にも、片田博士は死体の血液検査の結果、血球の中にマラリアの原虫を発見なさったのであります」

       3

 検事は最後の言葉を一語一語はっきり言い放って、その言葉が相手にいかに反応するかをじっと見つめた。
 はたして強い反応があった。すなわち山本医師は、

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