えっ? マラリア?」
 と、驚きの叫びを発して片田博士のほうを向き、本当ですかと言わんばかりの顔をした。
 博士はこの時、静かに口を開いた。
「そうです、明らかに三日熱の原虫を血球の中に発見しました。したがって、未亡人の死んだときにはマラリアの発作も合併しているわけですし、またそのことによって未亡人が一日置きに、しかも同じ時間に悪寒・発熱・嘔吐を起こしたことをよく了解することができます」
「けれど、嘔吐がマラリアのときに起こることは稀《まれ》ではありませんか」
 と、山本医師は反対した。
「いかにも稀ではあります。しかし、決してないことではありません」
 と、片田博士はにっこり笑って言った。
「ヒステリーの婦人がマラリアに罹ると、はげしい嘔吐を起こしたり人事不省に陥ったりしますから、いろいろの中毒と間違えられるのです」
「そこで」
 と、検事は二人の会話を横取りして言った。
「未亡人がマラリアに罹っていたとすれば、少なくとも四回の発病の際、四回ともマラリアが合併していたと考えてもよかろうと思います。いや、もう一歩進んで考えるならば、初め三回は単なるマラリアの発作で、四回めに亜砒酸中毒が
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