、さすがの未亡人も怒るどころか、むしろ感謝している様子がありありと見えたそうです。そうして、保一くんは悲しくも未亡人の死に目に遭ったのでした。
 きよ子嬢と保一くんが死体に取りすがって泣いているとき、あなたはひょっこり奥田家を訪れました。そうして未亡人の死を聞いて非常に驚き、亜砒酸《あひさん》の中毒ですよと大声でお言いになりました。それから死体をちょっと診て、すぐさま家に帰り、死亡診断書をお書きになりました。病名のところに明らかに亜砒酸中毒としてありますので、それが当然警察の活動を促し、ついに未亡人の死体は解剖されることになり、前後の事情から、健吉くんは真っ先に拘引されて取調べを受けることになりました。どうです。わたしがいままで述べてきたことは間違いがございましょうか」
 こう言って津村検事はハンカチで額を一撫《ひとな》でして、ちょっと署長のほうを振り返り、次に山本医師の顔を眺めた。両者とも異議がなかったと見え、ただ肯定的にうなずくだけであった。訊問室はしばらくの間しーんとして、蝉《せみ》の声がキニーネを飲んだときの耳鳴りを思わせるように響いてきた。
「ところで」
 と、検事は二、三回
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