ごろになると悪寒を催し、次いで発熱して例のごとくはげしい嘔吐に苦しみました。そこで午後二時ごろ、令嬢はあなたを迎えにやりましたが、その日、あなたは早朝与えた散薬のために決して症状が起こるまいと確信しておられたのか、家人に行き先も告げないでどこかへ行っておられました。そこで令嬢は慌てて他の医師を迎えようとしましたが、その時未亡人の容体が急変して、午後三時半、ついに未亡人は絶命したのであります。未亡人はかなりに太った体質の人でしたから、心臓があまりに強くなかったのか、あるいは中毒の原因が強く働いたのか、前三回の病気には堪え得たのに、四回めにはとうとう堪えることができなかったのです。
 令嬢は二十七日に、あなたが意味ありげな笑いをなさったのを見て、もしや兄が……という疑いが閃《ひらめ》いたものでしたから、その晩詳しい事情を二番めの兄、すなわち保一くんのところへ書き送りました。で、保一くんは二十九日には母に内緒に訪ねてきて、健吉くんが出かけるところを見届けてから奥田家に忍び入って、きよ子嬢の取り計らいで、あの暑さに押入れの中に入って隠れていました。未亡人が発病するなり、飛んで出て看護しましたが
前へ 次へ
全33ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング