、ことに健吉くんが出かけて二時間ほど過ぎたころに起こったのであります。
きよ子嬢はいつも兄さんの留守に母親が苦しむので、少なからず狼狽《ろうばい》したのですが、兄さんは非常に多忙な身体《からだ》であるから宿直の日に呼び戻すわけにいかず、しかも兄さんが休みの日は意地悪くも病気が起こらないで、兄さんに母親の苦しんだ模様を告げても本当にせず、このころから母親とはあまり口を利かなかったので、しみじみ母親に見舞いの言葉さえかけぬくらいでした。
山本さん、未亡人の三度めの発病の際あなたが令嬢からお聞きになった事情というのが、すなわち、このことだったのです。あなたはこれを聞くなり、意味ありげな笑いを浮かべて、じっと考え込みました」
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「さて」
と、検事はさらに続けた。
「未亡人の三回め、すなわち七月二十七日の発病もあなたの適当な処置によって無事に治まり、その翌日はなんともありませんでした。あなたは二十九日の発病を防ぐために、一包みの散薬を与えて、午前十時ごろ飲むようにと、その朝わざわざ書生を奥田家に遣わしになりました。ところがその散薬の効が薄かったのか、未亡人はやはり十一時
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