なぜそんなことをしたのですか」
「知りません」
「ヘララ一家とどういう関係があるのですか」
「何にもないです。ヘララという人を見たこともありません」
「けれど態々《わざわざ》あの人の家を選んだのはどういう訳ですか」
「ただ試して見たのです。どこでもよかったのです。偶然それがヘララさんの家だったのです」
 二時間の後ヘンリーは最後の息を引き取った。
          ×       ×       ×
 以上が先年ニューヨーク市を騒がせた不思議な爆弾事件の顛末である。こうした事件では、科学もあまり役に立たないのである。ことに動機のはっきりしていない犯罪事件では、探偵は非常な困難を経験しなければならない。もし神がその審判の槌を打ち下さなかったならば、ヘンリーは第四、第五の犯罪を重ねたかもしれない。かくて、「神は殺人のような大罪を見捨てて置かぬ」といった英文豪チョーサーの言は、科学探偵の時代にも立派に通用することがわかる。
[#地付き](初出不明)



底本:「探偵クラブ 人工心臓」国書刊行会
   1994(平成6)年9月20日初版第1刷発行
底本の親本:「趣味の探偵団」黎明社
   
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