り出された。その弾丸はアメリカ製のものであるとわかったが、日本へは沢山アメリカ製のピストルが輸入されていることとて、兇行に使用されたピストルそのものが発見されぬ以上、何の手がかりにもならなかった。兇行の現場には何一つ物的証拠はなく、従って、外相暗殺は、「|完全な犯罪《パーフェクト・クライム》」といってもよいものになった。
物的証拠の何一つない場合に、犯罪は当然動機の方面から観察され捜索される。中には外相は首相の身替りになって殺されたのだという説をなす者もあったが、先ず、外相自身を中心として考察するのが順序であった。外相は公人であるから、殺害の動機は当然、公的と私的との二方面から研究すべき必要があった。そのうち私的の方面に就《つい》ては、夫人の知っている範囲では何一つ心当りとなるものはなかった。これに反して公的には対支問題、対米問題、対露問題など、考慮すべき事情が沢山あったので、警視庁では先ず、その各方面を厳重に取調べることになり、その結果、嫌疑者を数人|引致《いんち》するに至ったが、いずれも暗殺当夜の行動を明白に立証することが出来たので、事件は迷宮にはいってしまった。
外相暗殺後約
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