てぎょっとした。即ち、今始めて総監が自分を呼び寄せた真意を見抜いてぎょっとしたのである。松島氏は驚きのため息づまるように感じた。総監が自分の言葉を聞きたがったのは、責任観念のみの然《しか》らしめたところでなく、もっと大きな動機があったのだと知って松島氏は恐怖に近い感じを起した。
 見ると、総監の唇は暗紫色を帯び、顔に苦悶の表情があらわれたので、松島氏は隣室に退いた人々を呼びに行った。夫人を先頭に主治医と看護婦とがあたふたかけつけ、主治医は取り敢えずカンフル注射を、三回総監の腕に行った。
 総監は眼を開いたが、あたりの人の存在に気づかぬものの如く、松島氏を見つめて言った。
「しかし、しかし、犯人の……手ぬかりとは……何ですか?」
 それは、やっと聞きとれるか、とれぬ位の細い声であった。松島氏はこの質問に答えることを躊躇して、主治医の顔を見た。脈搏を検《み》ていた主治医は夫人に向って、もう絶望だという合図をした。松島氏はそれを見て、一層返事することを苦痛に思った。しかし、総監はその言葉の意味をきかねば死に切れぬのである。いかにも、その言葉の意味をきかねば死に切れぬということを松島氏はたった
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