過ぎなかった。
 それにしても、松島氏の見つけた、事件の大きな手ぬかりとは何であろう? 又、犯人はどんな手ぬかりをしたのであろうか? 実験の当夜それに就ての首相の質問にさえ答えなかったくらいであるから、無論外相夫人にも告げなかったが、I総監はじめ警視庁の人々は、何とかしてそれを知り出さねばならなかった。で、総監はそれについて非常に焦心したらしかったが、松島氏の頭脳には叶《かな》わぬと見えて、部下の人々のうちでも、松島氏の発見した二箇条の手ぬかりを発見するものは一人もなかった。
 あくる年早々、I総監が半身不随に罹《かか》った旨が報ぜられた。世間では外相暗殺犯人の出ないことを心痛したために、そのような病気を起したのであろうと、大いに同情するものがあった。松島氏も同情組の一人であって、折があったら、一度総監を見舞おうと思っていると、二月の始めのある寒い夜、総監の官邸から、総監が是非御目にかかりたがっているから即刻来てくれという使者が来た。
 事情をきいて見ると、総監は数日前より肺炎を併発し、主治医から恢復の見込がないと宣言されたので、息のあるうちに、是非松島氏に逢ってききたいことがあるから
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