あったためか、若手でありながら、外交官仲間には、可なり、勢力を有して居た様子であります。
私は、自分が招かれる以上、多分夫人が妊娠したのであろうと推察しました。そうして、以前孔雀のように振舞った美しい夫人の姿を想像して先方にまいりますと、意外にも夫人は一人の看護婦に附添われて、ベッドの上に病人として横《よこた》わって居りました。頬が痩《や》せこけて皮膚に光沢《つや》がなく、一目見たとき私は別人ではないかと思いました。
診察をすると、夫人はやはり妊娠九ヶ月の身重でしたが、それと同時に夫人は肺結核に罹《かか》って居たのであります。胎児の位置は正常で、分娩そのものに危険はありませんでしたが、肺結核は明かに進行性のものでありました。ことに心臓が可なりに衰弱して居て、一日も早く妊娠を中絶しなければ、母体がとても分娩まで持つまいと思われました。
そこで私は人工早産の必要を告げますと、夫人は別に驚く様子もなく、妊娠三ヶ月頃から結核にかかり、内科医に診てもらうと、内科医は頻りに妊娠の人工的中絶をすすめてくれたが、事情があって、たとえ、自分は死んでもお腹の子を無事に産み落したいと思って今日まで暮し
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