る音のような、いわゆる呱々《ここ》の声がきこえました。私は思わず、赤ん坊を見つめました。然し、生れた子には夫人の予期したような異常現象は認められませんでした。即ち赤ん坊は皮膚の色にも顔の形にも変ったところはなく、九ヶ月とはいいながら、比較的よく発育して居て、顔をしかめてなき乍ら活溌に手足を動かしました。
と、その時、「うーん」とかすかに唸る声が聞えましたので、はっ[#「はっ」に傍点]として夫人を見ますと、眼球が不規則に動いて、唇が顫《ふる》えました。私はびっくりして、とりあえず注射を試みましたが、夫人の息は間もなく絶えてしまいました。
私は夫人の死を悲しむよりも、むしろ、心の軽くなるのを覚えました。夫人が若し、生れた女の子を見て、予期した異常を認め得なかったならば、どれほど失望したであろうかと思うと、赤ん坊を見ない先に死んだことは、せめてもの心遣りでありました。けれど、夫人が赤ん坊の泣き声を耳にしたことはたしかであろうと思いました。そうして、恐らく夫人は子供が無事に生れたことを知って、急に気がゆるんで死んだのであろうと想像しました。
看護婦と産婆は、婦人の死に狼狽して、臍帯《せい
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