たい》を切りはなしたまま、赤ん坊を、夫人の両脚の間に横わらせて置きましたから、私は、産婆に産湯の用意を命じ、看護婦を本邸に走らせてT氏に異変を告げさせました。そうして私は、規則として、赤ん坊の眼病を防ぐために、硝酸銀の溶液を滴らすべく、はじめて赤ん坊の右の眼瞼《まぶた》をあけたのであります。
その時、私はあっ[#「あっ」に傍点]と叫んで思わず手を引きました。
皆さん、生れた女の子の眼が、実に、藍色をして居たのであります。
私は思わず北斎の絵を見上げました。
あの藍色の印象が、果して、赤ん坊の眼の色に影響したのであろうか?
然し、
然し、
私は、次の瞬間、そうした、いわば、超自然的な理由を考えるよりも、もっと常識的な、もっと現実的な理由を考えて、ぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]としたのであります。
夫人はまさしく良人に復讐することが出来たのではないか?
夫人は、むしろ初めから、このことを予期して居たのではあるまいか? そうして、なお、念のために超自然的なことを、希《こいねが》ったのではあるまいか?
こう考えて、夫人の死顔を眺めると、気のせいか、唇のまわりに、狡猾《こうかつ
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