と、夫人は泣きやんでから、痩せた両手を合して、私を拝むような挙動をしました。私は、あわててそれを制し、
「出来るだけのことを致しましょう。どうか気を静めて下さい。あなたのお身体に障ると、自然お子さんの生命にも影響しますから」と、答えたのであります。
夫人に出来るだけ安心を与えて、その日は帰りました。すると、その翌々日の午前七時頃電話がかかりまして、夫人に陣痛様の痛みが始まったからすぐ来て下さいという通知を受けました。分娩の時期がかくの如く早まったことは、夫人の身体が極度に衰弱したためであろうと想像し、私は何となく暗い気持になって、先方へ駈けつけますと御主人のT氏が出迎えてくれました。
「Wさん、今回は家内が大へんお世話になりまして、有難う御座います。家内は御承知のとおりの、ひどいヒステリーでして、私を病室の中へ入れることを断然拒んで、とても手がつけられません。これまで診察を受けて居た内科のDさんさえ、今日は寄せつけようとしません。どうしてもあなたでなくてはならぬそうです。Dさんのお話では、病気が急に進んだから生命が非常に危険であろうとの事です。どうかまあ、何分よろしくお願い致します」
前へ
次へ
全18ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング