来ました。若し私が望みどおりの怖ろしい形をした子を生みましたならば、それで私の良人に対する復讐は、りっぱに遂げられたといってよいではないでしょうか。そのめずらしい不具の子がだんだん生長して行くのを見ることは良人にとって永遠の恐怖だろうと思います。けれど、若しこの子が死んでしまっては何にもなりません。ですから、どうしても無事に生まなければならないのです。どうか先生、私の本望を遂げさせて下さいませ。私はくやしくてなりません。お願いです。ね、先生、どうぞ……」
あとははげしい啜《すす》り泣きの声に変りました。私は以上の言葉をきいて、夫人の執念の恐ろしさに、夫人の顔そのものが、すでに鬼のように見えて来ました。わが子を不具にしてまで良人を呪おうとする怖ろしい心。たとえ、夫人の予期したとおりのことが起るか起らぬかは保証し難いにしろ、少くとも、そうしたことをたくむ心には、戦慄を禁ずることが出来ませんでした。
妊娠中に目撃した印象が、そのまま胎児にあらわれるという現象は、古来の文献に少くありません。かような現象は、もとよりヒステリックな女に多いのですから、ことによると、夫人は、予期通りの子を生むか
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