のことを考え合せた結果、私は、ある恐しい事情を推定し、早速図書館へ行って、旧刑法を検《しら》べて見ました。
 すると私は、ある条文によって、私の推定のたしかなことを発見しました。即ち、私は、彼女の父を殺した犯人と彼女の母を殺した犯人が何者であるかを知ったのです。が、それは、彼女に告げることの出来ぬほど恐しい事情だったのです。けれど、そうなると、却って、彼女に、あっさり知らせてやりたいという気持がむらむらと起って来ました。やはりこれも若い時の好奇心なのでしょう。で、種々《いろいろ》、彼女に知らせる方法を考えましたが、どうも名案が浮びません。とうとう、兎《と》にも角《かく》にも彼女に逢った上のことにしようという気になってしまったんです。
 犯人の推定や図書館通いに、凡《およ》そ二週間ばかり費し、ある晩ひょっこり彼女をたずねましたら、彼女は顔色をかえて、「身の上ばなしをしたから、それで厭気《いやき》がさして来なかったのでしょう」と私を詰《なじ》りました。で、私は「お前の両親を殺した犯人を捜して居たんだ」というと、彼女は「嘘だ嘘だいい加減の出鱈目《でたらめ》だ。あなたに捨てられたなら、私はもう
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