生きて居ない」といって泣き叫びました。泣いて泣いて、どうにも手がつけられぬので、私はとうとう「その証拠に、犯人が知れたよ」と口を辷《すべ》らしてしまったんです。
それから彼女が、どんなに、犯人をきかせてくれと、私にせがんだかは御察しが出来ましょう。仕方がないので、私は、私の見つけ出した刑法の条文を、手帳の紙を破って、鉛筆で書いて、これを読めばわかるといって投げ出しました。
彼女は、むさぼるようにして、それを読んで居ましたが、何思ったか、その紙片を、くしゃくしゃに丸めて、急ににこにこして、私の機嫌をとりました。私は頗《すこぶ》る呆気《あっけ》ない思いをしました。
床へはいってから、彼女は、「ねえ、あなた、わたしがどんな素性でも、決して見捨てはしないでしょう?」と幾度も幾度も念を押しましたので、私は、彼女が、両親を殺した犯人を察したのだなと思いました。そう思うと、急に愛着の念が増して来ました。妙なものです。私は、それまで嘗《かつ》てつかったことのないやさしい言葉をかけて、心から彼女をいたわってやりました。すると彼女は安心して眠り、私もまたぐっすり寝込んでしまいました。
幾時間かの後
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