……おや、もう警視庁へ来ましたよ。そのことはあとでゆっくり話しましょう」
 こう言ったかと思うと、俊夫君は自動車の扉《ドア》をあけて、さっさと出てゆきました。

 警視庁には俊夫君がPのおじさんと呼ぶ小田刑事がおられて、私たちをにこにこした顔で迎えてくださいました。俊夫君は小田さんと二人きりで、しばらくのあいだ何やらぼそぼそ話をしておりましたが、それがすむと、ちょうど昼飯《ひるめし》時だったので、私たちは小田さんといっしょにうどん[#「うどん」に傍点]のご馳走になりました。木村さんは相変わらずぼんやりしていましたが、俊夫君は快活にはしゃぎました。
 食事がちょうど終わった時、小田刑事の部下の波多野さんが角袖《かくそで》でふうふう言って入ってこられましたが、私たちの姿を見てちょっと躊躇《ちゅうちょ》されました。すると小田さんは、
「波多野君、この人たちは、みんな内輪だから、かまわず話してくれたまえ」
 と言われました。
「仰《おお》せに従って新堀町の八百屋を見張っておりますと、竹内は土瓶を持って帰りましたが、三十分ほど過ぎると、人力車が来まして、竹内は行李《こうり》とその土瓶を持って、その車に乗りました。車は品川の方をさしてずんずん走り、私は車のあとからついて走りました。
 それから品川を過ぎ、大井町を通って大森の△△まで行きました。あまり遠かったのでずいぶん弱りましたが、ついに車は畑中の一軒家の西洋造りの家の前でとまり、竹内は行李と土瓶とを家《うち》の中に運び入れて車をかえしました。私はしばらくその家の様子を伺っていましたが、家の中には誰もいないように思われました。
 近所で聞いてみると、誰もどんな人が住んでいるかは知らないけれど、夜分になると男が五六人集まってきては、西洋館の階下の隅にある室《へや》で、化学実験のようなことをするということでした。そこで私はとりあえず、品川署へ電話をかけて二人の角袖《かくそで》巡査にその家の見張りをさせ、ひとまず帰ってきたのでございます」
「それはご苦労様。それじゃ、やっぱり夜分でないと、あげる[#「あげる」に傍点]ことはできないねえ、まあゆっくり休んでくれたまえ」
 と小田さんは言いました。
 波多野さんが出てゆくと、小田刑事は俊夫君に言いました。
「俊夫君、いま聞いてのとおりだから、今夜七時にここで勢揃いして、八時頃にむこうに着
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