、その恋しい痛みを覚えなくなったんです。さあ大変私は身体中のどこが痛いかと、方々捜しまわった結果、でも、唇のまわりや、足の裏を捜しあてて痛みを味って来ましたが、それも二三日注射が続くと、もう、感じがなくなってしまいました。
 とうとう、しまいには自ら注射器をとって、御無礼な話ですが、恥かしい部分の皮下へ注射したんです。さすがにこの部分の皮膚は痛みが強くて、何ともいえぬ愉快を感じましたが、それも然し四五日以上は続きませんでした。
 もう痛いところは何処《どこ》にもなくなってしまいました。旦那、私が、何とかして痛いところを見つけ出そうと焦燥《あせ》った時の心持を御察し下さい。例の時刻が近づいて来ると、私は気ちがいのようにもだえましたが、悶《もだ》えたあげく、たった一つだけ残って居る、一ばん痛いところを見つけたんです旦那、それを何処だと思います?
 眼ですよ。眼ですよ。眼にものがはいった時の痛みは旦那もよく御承知でしょう。つぶれた眼には痛みはないですが、あいて居る眼は、私の欲望を思う存分|叶《かな》えてくれるだろうと、私は喜び勇んだものです。
 で、その晩、例の時刻に、モルヒネの注射針を左の
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