かしてくれます。私は勿論《もちろん》変名で入院しました。兎《と》に角《かく》[#「兎《と》に角《かく》」は底本では「免《と》に角《かく》」]、警察へは引張られずにすみ、事件は、それ何とかいいますねえ、そうそう「迷宮入り」ですか、まったく、有耶無耶《うやむや》にすんでしまいましたよ。
ところがです、法律上の罰は、みごとに免《まぬか》れましたけれど、恋敵の血の罰が、なおもはげしく、私にせめかかってまいりました。
右の眼がつぶれて、翌日から痛みは去りましたが、さあこんどは、例の時刻が来ると、モルヒネの注射をして貰わねば、身体中がむしゃむしゃして来て、とてもこらえられないようになったんです。それも普通のモルヒネ中毒とはちがって、モルヒネが身体の中へはいって行くときの痛みが恋しくて恋しくてならぬようになったんです。旦那、旦那は、モルヒネが皮膚の中に沁みこんで行くときの、あの涎《よだれ》の垂れるような、気持のよい痛みを御経験になったことがありますか。あれですよ、あの痛みが恋しくなったんです。で、毎日、例の時刻にモルヒネを注射してもらいましたが、一二週間経つと、腕や背中のどこに注射してもらっても
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