疑うかのように、暫《しば》らく巻煙草を口から離して按摩の返答を待った。
「両方の眼をつぶして盲人《めくら》になるんですよ。眼をつぶせば、あの恐しいモルヒネ中毒さえなおるのですもの、ニコチン中毒ぐらいは訳もなくなおると思うのです」
 彼は背筋にひやりとするような感じを起した。
「お前はその経験があるとでもいうのか?」とたずねた彼の声は、心もち顫《ふる》えて居た。
「そうですよ。実は私の眼も、むかしは一人前に見えたんですが、ふとしたことからモルヒネ中毒にかかって、あげくの果に、眼をつぶすことになりましたが、眼が見えなくなると、不思議にもモルヒネ中毒はけろりとなおりましたよ」
「ふむ、妙な話だなあ。どうしてモルヒネなんか嚥《の》む気になったんだい?」と彼は聊《いささ》か好奇心に駆られて、どんよりして居た眼を輝かした。
「さあ、それをきかれると困るんですけれど……」
「いや、話してくれよ」と、彼は吸いさしの煙草を火鉢の灰の中へ突きさした。
 按摩はにやり[#「にやり」に傍点]笑った。
「大ぶ乗気になりましたねえ。ええ、もう、白状してもかまわぬ時ですから、思い切って御話ししましょう。実はねえ旦那
前へ 次へ
全9ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング