按摩
小酒井不木

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)揉《も》み

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)老|按摩《あんま》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)にやり[#「にやり」に傍点]
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 コホン、コホンと老|按摩《あんま》は彼の肩を揉《も》みながら、彼の吸う煙草の煙にむせんで顔をしかめた。少し仰向き加減に、首と右肩との角度を六十度ぐらいにして居るところを見ると、生れつきの盲人《めくら》であるらしい。
 郊外の冬の夜は静《しずか》である。
「旦那はずいぶん煙草ずきですねえ。三十分たたぬうちに十本あまりも召し上ったようですねえ」
 と、彼は狡猾《ずる》そうな笑いを浮べて言った。
「うむ。俺はニコチン中毒にかかったんで、身体中の肉がこわばってどうにもならぬから、按摩が通るたびに呼びこまずには居《お》れんのだ。何とかしてこのニコチン中毒は治らぬものかなあ」と彼は中年のニコチン中毒患者に特有な蒼白い顔をして、でも巻煙草を口から離さずに言った。
「そりゃ旦那、眼をつぶすに限りますよ」
「ええッ? 何?」と彼は、わが耳を
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