暮しましたが、義夫が七歳になった春、老母は卒中で斃れ、その後間もなく、私は不自由を感じて、人に勧められるままに郷里に近いO市から後妻を迎えたのであります。自分の子を褒めるのも変ですが、義夫は非常に怜悧な性質でしたから、継母の手にかけて、彼の心に暗い陰影を生ぜしめてはならぬと、心配致しましたが、幸に後妻は義夫を心から可愛がり、義夫も真実の母の如く慕いましたので、凡そ一年間というものは、私たちは非常に楽しい平和な月日を送ったのであります。私たち三人の外には、看護婦と女中と、馬の守《もり》をする下男とが住んでおりましたが、いずれも気立のよい人間ばかりで、一家には、いわばあかるい太陽《ひ》が照り輝いておりました。
ところが、そのあかるい家庭に、急にいたましい風雨が襲って来たのであります。それは何であるかと申しますと、妻即ち後妻の性質ががらりと変ったことであります。彼女は先ず非常に嫉妬深くなりました。私が看護婦や女中と、少しでも長話しをしていると、私を始め彼女たちに向って、露骨に当り散らすのでありました。次に、義夫に対して、非常につらく[#「つらく」に傍点]当るようになりました。少しの過失に対
前へ
次へ
全16ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング