か辛抱してきましたが、もうこれ以上メデューサの首のために、わたしの肉体の破壊されるのを許すことができなくなりました。ですからわたしの腹を断ち割って、メデューサの首を取り出していただきたいと思います。ね、先生、どうか気の毒だと思いになったら、わたしの願いを聞いてください」
 わたしはぎくりとしました。この恐ろしい難題にぶつかってわたしははげしい狼狽《ろうばい》を感じました。わたしはむしろこの場から逃げ出してしまおうかと思ったくらいでした。すると、わたしの狼狽を見て取った彼女は、
「先生、先生はたぶん、わたしのような妙な癖を持った者が、平気で他人に身を任せて手術を受けることを不審に思いになるでしょう。けれども、自分の容色の美を保つためならば、わたしはあらゆることを忍びます。メデューサの首を取り出してしまえば、わたしの容色を取り返すことができます。その喜びを思えばどんな犠牲でも払うのです。ね、先生、潔く手術を引き受けてください」
 わたしはなんとなく一種の威圧を感じました。とその時、わたしにある考えが電光のように閃《ひらめ》きました。そうだ、この女の腹水を去らせ、血液の循環をよくしさえすれば
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