って居ることに気づいたのだ。
 それから後の一二時間というものは自殺の決心と生に対する執着とが猛烈に僕の頭の中で戦ったよ。僕は一時どうなることかと気が気でなかった。僕は或は発狂するのでないかと思った。しかし幸に発狂することなしに、解決の道を見出したのだ。
 即ち、この生の執着に打勝って自殺するには、そこにスプリングボールドとなるものがあればよいということに気がついたのだ。君は恐らく、生の執着が頭をもたげたら、それに従って自殺を思いとどまったらよいではないかというであろうが、それは反省と妥協の余地のある自殺に限るので、僕のような場合にはただ生の執着に打勝つ方法が問題となるだけだ。
 スプリングボールドはいうまでもなく死の道づれだ。死の道づれといえば、普通は、こちらの心に同情して死んでくれる者をいうのだ。けれども、不幸にして、僕にはそのような人を見つけることが出来ぬのだ。といって、スプリングボールドがなくては、とても死ねなくなって来たのだ。
 そこで僕は大《おおい》に考えたよ。大に焦燥《あせ》ったよ。その結果、スプリングボールドとするには、あながち先方の同意を得なくっても、換言すれば、先方
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