づれにするかを怪しむであろう。ところが、それは極めて、わけのないことだ。
 今日の正午に、僕たち三人は、いつもの如く平和に食事をする。今日は一日で休業日だからほかの使用人は一人も居ない。君たちはまさか、僕が、君たちの抱擁をひそかに見たとは思わないであろうから、僕がこのような心をいだいて居ることに少しも気づかぬであろう。そこで僕は、君と恒子さんとの食《たべ》ものの中へ、――の致死量をまぜようと思う。――は前に書いたごとく、自殺に都合のよいと同じく他殺にも都合がよいのだ。
 もとより、君たちが食事を終った後に、僕は――をのむ。そうして、君が食事をしてしまってから約三十分ほど過ぎて、この手記を渡すのだ。すると君と恒子さんは、――をのまされたことを知って定めし狼狽するであろうが、も早どうすることも出来ないのだ。
 君たちが昏睡に落《おちい》ると、僕は君と恒子さんとをならばせ、それから、僕は恒子さんのわきに横になろうと思う。そうすれば僕と君とは恒子さんをはさんで死ぬことになるのだ。
 加藤君、
 このあたりの文句は、ことによると、君の眼には触れぬと思う。――何となれば君たちはきっと、中毒から逃れ
前へ 次へ
全13ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング